2004年08月16日
ダブルF(5)
優男のために部屋を借りた女性と、前日若い女性のための部屋を借りに来た中年男性
この二人の男女の苗字と住所が同じです。
そうです。この金持ち夫婦はお互いに自分の愛人とツバメのために、
同時期にしかも同じ不動産屋に来たのです。
まるでパロディドラマです。
“これは、どうしたらいいのか?”
参りました。ほんとに参りました。
もちろん絶対にばれないようにしなければなりません。
このことについて、私は何も知らなかったということにしなければなりません。
しかし、まだ契約の決済と鍵の引渡があります。
万一、そこでかち合ってでもしたら・・。
修羅場です。ただではすみません。もちろん契約どころではありません。
少なからずうちも火の粉をかぶるのは必至です。
なんとしてもこの修羅場だけは避けなければなりません。
鍵の引渡しまでの間、どちらかから電話が入るとドキドキして常に気を使っていました。
決済日もわざとこちらの都合を装って日時をずらし、なんとか修羅場だけは避けることができました。
結局、無事契約も終わり、機嫌よく帰っていきました。
今から思えば、何気なく申込書を確認した時、そのことに気付かなかったらと思うと・・・。
世間ではこのような夫婦を仮面夫婦と呼ぶのでしょうか?
お互い経済的にかなり余裕があるのでしょうが、お互いに愛人がいることなど知ってか知らずか・・。
他にいくらでも不動産屋があるのに、よりによって同じ不動産屋に来るとは・・・。
担当者の身にもなってほしいものです。
終
ダブルF(4)
次の日、真っ赤なアウディが店の前に止まり、男女が店に入ってきました。
男性は20歳前半のパッとしない優男、女性は40歳半ばで派手な洋服に
黒のエルメスのバーキンが印象的です。
終始女性が話をし、完全に主導権が女性にあります。
女性の言われたとおりの条件と間取りの物件を出し、それぞれの物件について説明しました。
「それじゃ〜、これとこれ! 見せてちょうだい。」
女性は極めて事務的に、物件を選びました。
男性は、あまり余分なことは言おうとしません。
成人にもなって未だ乳離れのしない息子と、子離れしない母親といった雰囲気ですが、
それにしては、妙に年が近いように思えます。
雰囲気が派手でお化粧も完璧、生活感のない女性だったからでしょうか。
物件案内も手際よく終わり、また女性は竹を割ったような性格で次から次へと話を進めます。
結局、この女性が決めた物件の申込みをする際、男性が契約者、女性が保証人となりました。
申込書に目を通したところ、苗字がまったく違っていました。
「続柄は?」
そう契約者と保証人の関係を、私は何の疑いもなく質問したところ
「う〜ん・・・」
バツの悪そうな顔をして
「あなたが適当に書いておいて!」
「え!適当にですか!?」
これでわかりまいた。彼と彼女は親子や兄弟でもなければ、会社の上司部下でもありません。
事実、彼の仕事は飲食店勤務、彼女は会社経営です。
そう、まったくの他人です。彼女がこの優男のために部屋を借りるのです。
いわゆる“ツバメ”というやつです。
ある程度把握ができたところで、ヤボなことを聞かぬよう、それとなく事情聞きました。
幸いにも申し込んだ物件の家主は、うちと付き合いも長く、
契約者の内情をとやかく言う家主ではなかったので、
まず審査上ダメになることはありません。しかし・・・。
「わかりました。後のことは任せてください。」
まるで“魔女に仕える下部(しもべ)”のようです。
後日の契約日のことを、約束して帰っていきました。
その後、自分の席について申込書をゆっくり確認したところ
「え〜〜〜〜ッ!?」
とんでもないことを見つけてしまいました。
つづく
ダブルF(3)
若い女性のいきいきとした目とは対照的に、男性の目は虚ろ気味です。
でも、女性が嬉しそうに自分に話しかけてくるのが、男性も嬉しかったのでしょう。
「それじゃ、このマンション見せてくれる?」
ハイグレード新築未入居マンションを指差しました。
マンションの部屋に入って女性は大はしゃぎです。
女性は男性の腕を持ったり、上目使いで男性を見たりと、男性も終始笑顔です。
女性は決して自ら「このマンションがいい!」とは言いません。
そう、男性から言わせるのです。若いのにたいしたものです。まったく末が恐ろしい。
「じゃ〜・・。ここでいいんじゃないかな。」
男性が私に言ったと同時に、横でその女性がニヤッっとしたのは、私の気のせいでしょうか?
何も問題なく申し込みをし、5日後決済金と必要書類を持参していただく約束をしました。
賃貸借契約には、一般的に契約者の住民票など身分証明が必要となります。
次の日、男性が急に現れ書類と決済金を持ってきました。
「え!? 決済4日後のはずですが・・・?それにまだ契約書ができてないんですよ。」
「近くに寄ったから、お金も書類も渡しておくよ。」
早速、男性は役所に行って住民票などを取りに行ってくれていました。
「ところで、自宅には家主とか管理会社から連絡しないよね!」
「わかっています。そのへんは家主も了承済みですので・・・」
まるで、“時代劇の悪徳お代官様とよろずや”といったとこでしょうか。
「それじゃ 頼んだよ!」
男性は上機嫌で出て行きました。
つづく
ダブルF(2)
「え〜っと、この辺で1LDKくらいの賃貸マンションを探してるんですが・・・。」
男性はとても紳士です。
若い女性を気使うように、男性はチラチラと女性の顔を見ています。
私はすでにこの状況下で察しがついていました。
「1LDKですね。ご予算はほうは?」
「家賃が7〜8万円くらいかな。」
だいたいのお客さんというのは、実際にある物件の家賃の2割ほど安い値段を言ってきます。
これは繁華街で乱立する賃貸専門店の不動産屋のチラシや雑誌などで
客寄せのために安く広告を出しているのが原因です。
お客さんはこのような広告をつい真に受けてしまうのです。
「その家賃ではこんなマンションですね。もうちょっと出せばこんなマンションもありますが・・・。」
とてもこのような家賃では物件はありません。あってもかなり古い物件か、
設備的に支障がある物件です。
ましてや、隣でシャネルのカバンを持ってタバコを吹かしている子生意気な若い女性が、
こんな物件を気に入るはずがありません。
私は思い切って他の物件を出しました。
「こんなマンションはどうでしょうか?」
若い女性は資料を見るや身を乗り出しました。
それもそのはず、最新の設備でハイグレード、リビングが15帖で新築未入居に住めると思うと
食いついてくるのも当然です。
私だってこんなマンションに住みたいです。
「他にはこんなマンションも・・・・。」
同じようなグレードの高いマンションを並べて見ました。
急に花が開いたように二人は、楽しそうに物件資料を見ています。
しかしながら、家賃はというと男性が言っていた家賃の倍以上に跳ね上がります。
つづく
